季節は段々秋めいて快適な登山が楽しめるものと期待していた矢先、突如母が心筋梗塞で緊急手術を行いました。その為予定していた乗鞍岳登山は流れ、山には暫く入ることはないかもしれないと思っていました。
母が入院して数日後、今度は超大型台風が襲来。事前の触れ込みが兎に角強烈だった事や、前回の千葉に大打撃を与えた台風の恐ろしさが更に恐怖を煽り、一体どうなってしまうのか??と、水の確保等万全の態勢で待ち受けました。
夜が明け、ニュースを見て驚愕。各地で川が決壊、広範囲に渡って氾濫。関東から東北にかけての甚大な被害に心が痛みました。当然のことながら、山も相当なダメージがありました。登山道崩落、倒木等で通行止の区間が殆ど。更に登山口にアクセスする林道がことごとく通行止。一番ショックだったのは、幾度となく利用してきた日原へと続く道路が完全に崩落、日原集落が孤立したことでした。
無事に母が退院できたと喜んだのも束の間。最高の山日和にもかかわらず、登山を自粛せざるを得ない状況は続きました。
それでも日々登山道のチェックを欠かさず行っていたところ、レンジャー確認済みの登山道が大分増えてきました。そこで、急遽思い立ち、まずは簡単な高水三山から始めようと決意。そして同じ日、やはり辛抱堪らんと山行を決意し、私を誘ってくれたのがTさんでした。
しかし、ここ数週間に起きた様々な事件で、私の心は疲弊しきっていました。どうしても、独りで山に行く必要がありました。そこでTさんからのお誘いを丁重に断り、一人御嶽駅へと向かいました。
たまには正規のルート、軍畑から出発してみたいところでしたが、御嶽駅から惣岳山はかなりの急登。登山道が荒れていることを思うと、あの道を下るのは危険だと判断し、いつものように逆ルートで登ることにしました。
いきなり急登の斜面は、多少荒れながらもそれほど危険箇所もなく順調に進みます。急登を暫く登ると平坦な尾根道へ。杉が隙間なく整然と並ぶ間に付けられた細い道は、木漏れ日が当たりところどころ輝くように見えます。その幾筋もの光は、地面や草からゆらゆらと立ち上る蒸気の粒を照らし、上空に吸い込まれて行きました。鳥の声もなく、風も吹いておらず、ただ、しん。とした静寂の中、その空間に同化するべく、暫く立ち尽くしていました。
大きな深呼吸をし、前日に降った雨で匂い立つ土の香りを胸一杯に吸い込み、再び歩き始めます。
やがて道は惣岳山山頂直下の沢筋の道へ。ここで、台風の爪痕を強く意識することになりました。階段状に渡されていた丸太はバラバラになりながら辛うじてそこにぶら下がり、土はえぐれ、数ヵ所で陥没。おそらく登山道に水が流れ込み、沢と化したことが推測されました。水場として祀られていた祠は反対側に移されており、雨量の凄まじさを物語る光景でした。
その後惣岳山からは問題なく通過でき、大好きな岩茸石山までやって来ました。
お天気は最高。この日濃霧が観測された都心部をすっぽり覆い尽くす形で雲海ができていました。
日々の暮らしで否応なく溜まる心の澱。その澱が、加速度を上げて浄化されていくようで、誰も居ない山頂にあるベンチに腰掛け、暫くの間爽やかな空気に身を委ねました。
そこからは一気に高水山を経て下山。高水山を越えた辺りからちらほらと登山者ともすれ違い、段々山にも平常が訪れつつあることを感じました。
木々の擦れ合う音や草の匂い、谷間を流れる沢の音や空の青。五感すべてを使って味わう自然と、その中にいるちっぽけな自分。
がんじがらめに縛られた日常から解き放たれるこの瞬間が、私を山に向かわせる原動力なのかもしれません。
今回はそんなことをつくづく感じさせられた山行でした。
山の神様、ありがとうございます!
【高水三山登山記録】 行動時間 4時間(標準タイム4時間25分) ■山行タイム 3時間29分
7:26 御嶽駅
8:47〜8:53 惣岳山 1'21(2'00)
9:30〜9:55 岩茸石山 37(40)
10:17 高水山 22(35)
11:26 軍畑駅 69(65)
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