若い頃、夢中になって読んだ太宰治。その中でも「富嶽百景」は、特に印象的で、好きな作品の一つでした。作品の舞台となった御坂峠の天下茶屋には行ったことがあるものの、三ッ峠山にはまだ登ったことがありませんでした。
二百名山でもあるし、以前から気になっていた山でもあるので、今回は一番伝統的な表登山道を選択することにしました。
さて、古く奈良時代から修験道の霊山として知られた信仰の山「三ッ峠山」ですが、このルートは標高差1,000mはあるコースで、クライミングのゲレンデがある屏風岩まではかなり等高線の込んだ急登が続きます。
いつものように早出早着を心がけ、4時半に自宅を出発。6時過ぎに駐車場へ到着しました。天気予報は良かったはずなのに、着いてみると雲が多く、しかもかなりの霧。この分だと、せっかく山頂に登っても富士山には会えないかもしれないなぁ…。と半ば諦めつつ登山開始です。
登山道の入口には、梵字で書かれた達磨石がお出迎え。三ッ峠山を開山した空胎上人の弟子・三世信盈安西栄阿和尚と信者達によって建てられた自然石だそうで、早くも山岳信仰を彷彿させるスタートです。
樹林帯を黙々と登っていくと、大曲を越え、股のぞきまでやってきました。
本来であれば、ここから美しい富士山が見えるはず…なのですが、ガスガスで全く眺望はなし。暫く地道に登っていくと、今度は馬返しにやってきました。しかし、ここでも当然真っ白い霧の中。
次なるポイントである八十八大師は、八十八霊場を模した何十体ものお地蔵様が祀られているところ。遠隔地でも霊場巡りができるようにと造られたものだそうですが、濃い霧に包まれ、幻想的というよりちょっと不気味な雰囲気を醸し出していました。
その後も修験道らしく多くの旧跡を過ぎながら、道は山肌に沿うようなトラバースに変わります。切り立った岩壁を見ながら暫く歩いていくと、ついに屏風岩が出現。
これは登り甲斐があるだろうと思われるなかなかのゲレンデでした。この日は時間も早いことから当然のことながらクライマーはゼロ。さて、ここまでくれば山頂は間近です。だんだん、霧が薄らいだ隙間に青空が見えるところまでやってきました。
すると、山頂から降りてくる女性とすれ違いになりました。挨拶を交わすと、道を尋ねられたので暫くトラバースが続くことをお伝えしました。随分早いなぁと思ったので、伺ってみると、四季楽園に泊まっていたとのこと。なるほど、この山には山小屋が二つもあるので、ゆっくり富士山を楽しむ為に泊まるのもアリだなぁなどと思いました。おばさまとお互いにお守りの言葉を交わし合い、「山頂に行ったらガスが抜けるかも!」のありがたいお言葉まで頂き、お別れしました。山小屋からは綺麗に整備された階段を登っていきます。ついに、山頂へ到着!!
すると祈りが通じたのか、ガスが抜け、富士山だけがひょっこり顔を出していました。雲海の中から見える富士山の近いこと!!あ〜!!来て良かった!!と思う瞬間です。岩に腰掛け、暫く美しい富士山を堪能。しかし、見えていたのは数分間で、あっという間に再びガスの中に消えてしまいました。周囲を見回しても、上空だけが晴れていて、稜線は見えず…。本当なら、秩父山塊から南アルプス、そして八ヶ岳まで見えるとのことだったので、かなり期待していたのですが、残念ながら見ることは叶わずでした。
でも、この山にはまた来たい。と思わせるものがありました。素晴らしい眺望は、次に来る時のお楽しみということで、富士山だけでも見られたことに感謝し、今回はこれで下山することにしました。
やはり人気の山らしく、途中何組もの登山者とすれ違いながら、11時過ぎに無事下山完了です。
その後、近くにある三ッ峠グリーンセンターでお風呂に入り、談合坂で野菜を大量購入して大満足で帰宅しました。
「富士には月見草がよく似合う」の一節が印象的な「富嶽百景」には、太宰が井伏鱒二と共に三ッ峠に登ったことも書かれていますが、今度はその太宰が登ったと思われる天下茶屋からのコースで登ってみたいなぁと思います。
今回の【三ッ峠山登山記録】
行動時間 4時間47分 (標準タイム 5時間15分)
■山行タイム 4時間12分
6:30 憩いの森駐車場
7:37〜7:42 馬返し 1'07(1'15)
8:16 八十八大師 34(50)
9:06〜9:30 三ッ峠山(1,785.2m) 50(65)
10:35 馬返し 55(1'10)
11:17 憩いの森駐車場 42(45)
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