さて今回は、いよいよ迫ってきた剱岳の訓練登山第2弾。
懐かしの二子山に挑戦です。
前回登ったのは、なんと7年前。当然ながらクレイジーなKさんとの山行でした。
「怖い」という言葉を封印し、決死の覚悟でKさんについて登ったあの時の記憶は、7年経った今もなお色褪せぬまま残っています。
二子山と言えば、「秩父のジャンダルム」「クレイジーマウンテン」等、恐ろしげな異名を持つ山。
剱岳に挑戦しようとを決意して以来、訓練登山のメニューの中には浮かんでは消えつつ頭の片隅に常にチラチラしていました。
7年前に無事生還した時に、もう2度と登らないかもと思っていたはずの山でしたが、その山に再び登ろうとしている私がいました。
ある日剱岳計画をKさんに話したところ、やはりこの山の名前が挙がってきた為、
やはりこれ以上訓練に適した山はなかなかないのかもしれないと、半ばあきらめの境地になりつつありました。
Kさんからは快く「隊長」役を買って出て頂いてはいたものの、Kさんの愛猫の具合が思わしくないこと、更にNちゃんとの予定を合わせることが至難の業で、もしかして本番に間に合わない可能性も出てきてしまったことから、お互い不安がつきまとう中、Kさん抜きでついに決行することになりました。
そもそもこれほど難易度の高い山に、わたしたち二人だけで本当に行けるのか??冷静に考えると相当リスキーな計画なのではないかとモヤモヤが止まりません。
Nちゃんからも、「戸隠と同じ怖さか??」とか「西岳(上級者コース)を登らないで済まないか?」等
不安そうなメッセージが次々と送られてきていました。
ここで言う西岳上級者コースとは、いきなり始まる垂直50mの岩壁のルートのことです。この岩壁には、鎖がありません。
登り始めたら最後、後戻りすることは不可能です。
ミスしたら間違いなく死ぬであろうその岩壁をよじ登り、最大の核心部をクリアしても、その後連続する痩せ尾根はまるでゴジラの背中のようなごつごつした岩場の連続で、気が休まる暇はありません。
まさにクレイジーマウンテン…!!
しかし、上級者コースを登らずして二子山に行くなど、それは意味のないことです。
こうなったらやるしかない。
Nちゃんに返事をしているうちに腹が決まりました。
よし。やるぞ。
上級者コースを踏破する!
諸々の事情で前日に最終決定となり、帰宅してから急いで準備をして就寝となりました。
翌日2時起きで花園インター付近のコンビニでNちゃんと落ち合い、駐車場へと向かいます。
いよいよ始まってしまいました。
登山口には、死亡事故多発の為、当分の間上級者コースを登ることはお控えください。との看板が…。
前回来た時もそうでしたが、安易に立ち入らないように注意を促す看板の多いこと。
確かに自治体としては、登山者数の割に死亡者が多い危険な山という不名誉な場所にしたくない為の配慮なのでしょう。
しかし、我々はその危険な山に登るのです。
やがて眼前に立ちはだかるように岩壁が見えてきました。取付き部分に手をかけます。
のっけからなかなか難しいルートです。一旦勢いよく上に攀じ登り、右方向にトラバースしてまずは小さなテラスへと到達です。
ここでNちゃんを待ちますが、Nちゃん悪戦苦闘しています。暫くすると、ボコン!!と足元を何かが転がり落ちていきました。
石?と思っていると、「やっちゃいました」とNちゃん。なんとペットボトルを落とした模様。
「もしかして、無理かもしれません。」と言いながら、ペットボトルを回収しに一旦坂を下りていくNちゃん。
なんとここで撤退か…!?
しかし、今ならまだ引き返せます。どうするか。
もし本当に無理なら一般ルートで向かうしかないかもしれません。
Nちゃんをテラスで待ちながら、色々考えていました。
このテラスから上を見上げても、なかなかな岩場の連続です。こんなに険しかったか…。と改めてこの山行の危うさがひしひしと感じられる瞬間でした。
泥だらけになってしまったペットボトルを回収し、再び取付きの部分に手をかけ始めたNちゃん。
どうやって行けばいいのかわからないというNちゃんに、アドバイスを送りますが、今度はしっかりトラバースしてこちらに向かってきました。
「できたじゃん!!」と言いつつ、次なるポイントに向かって攀じ登っていきます。Nちゃんからはもう「無理だ」との言葉は出てこなかった為、覚悟を決め上へと向かいます。
この山で一番注意しなければならないのは、決してルートを誤ってはならないということ。この断崖絶壁で下に向かって降りることはほぼ不可能です。登るより下りる方が何倍も難易度が増す為です。
かつて取り付けられていた鎖の残骸(ボルト)の存在が、ルートが間違っていないことを証明する唯一の痕跡。ルートファインディングしつつ、ボルトを探しつつ、手がかりの確かさを嫌というほど確認しつつ、三点支支持でゆっくり登っていきます。
だんだん高度が上がってきて、向かい側の東岳の姿がばっちり見えてきました。途中休憩できそうなテラスで息を整えながらとにかく慎重に登っていきます。ようやく垂直だった岩壁の斜度が緩み、最大の核心部は終了しました!!
しかし、ここから先は狭い痩せ尾根が続きます。樹林帯を越えると高度感のある岩尾根に出ました。暫くすると西岳山頂へ到着!!しかし、まだまだ油断できません。ここから狭い尾根を一気に下り、ゴツゴツした狭いナイフリッジを暫く歩きますが、途中かなり危うい箇所もあったり、またルートを間違えそうになったりしながらとにかく慎重に慎重を重ねて進みます。核心部の垂直の岩壁よりも高度感があり、恐怖を覚えます。この日は猛暑日で、その暑さも相まってすぐに息が上がるので、少し進んでは息を整えながら歩くことしかできませんでした。
長かった狭い岩尾根もようやく終了で、最後の鎖場まで到着。なんとか下りてきました!!
そこから股峠までの道は、踏み跡が薄い部分もあり、わかりにくい部分もありましたが、ローソク岩を越え無事に股峠まで戻ってきました。
随分時間がかかりましたが、なんとか西岳踏破です。疲労困憊で、もう西岳だけで岩登りはお腹いっぱいな状態でしたが、とりあえず股峠でご飯を食べエネルギーチャージしてから東岳へ向かうことにしました。
さて、東岳へ出発ですがいきなりの急登で一気に体力が奪われていきます。粘土質でなかなかの悪路を暫く進み、岩場への取り付きが見えてきました。いきなり鎖がついた狭いトラバースを進みます。一箇所足場用に付けられた10cm四方位のプレートに足を乗せ、慎重に回り込んでいきます。その後もなかなか険しい岩場を次々と攻略。暫く岩場を登っているうちに、前回登った時に危うかった難所がどこだったのかとふと思いました。
「あれ!?あの難所って、確か最初の方にあった気がするけどどこだったんだろう!?」と言うと、Nちゃんが「さっきのところだと思いますよ」との返事。確かにちょっとオーバーハングしてたかも。そうか。あの足場のプレートがあったあのポイントだったんだ。そんなに難しさを感じないまま、しかも前回のようにプレート上で足チェンジをすることなく通過してしまいました。気付かないくらいの難易度に感じたということは、それだけ成長したということの証かもしれません。
でも、どうやって通過したのか自分でも無意識でした。はて、どういう足運びをしたのでしょう。その後は疲労で息が上がりつつもなんとか岩場を通過。とうとう東岳山頂へ到着しました!!改めて西岳を見てみるとその屹立した垂直のどでかい岩峰は相当な迫力です。よくもまあ登ったものです!!
お互いを讃えあい、よく目にその姿を焼き付け、下山することにしました。
とにかく最後まで、気を抜かず、慎重に慎重を重ねてゆっくりと下りていきます。そして、最後の核心部、例のプレート部分。私は結局足チェンジをすることなく、フリクションで岩壁に一旦足を降ろしてから足場に左足を乗せ、大きく右手を伸ばして鎖に振られないよう岩を抱き込む形でクリア。Nちゃんは長い足をうまいこと使って一旦下に足を置きクリア。しかし、自分では納得がいかなかった様子で、もう一度登り返し、再びチャレンジするという奮闘ぶりでした!!エライ!!
最後の難所を無事にクリアし、あとは粘土質の急坂に足を取られないよう慎重に股峠へ到着!無事に倉尾登山口まで戻ってきました!!
いやーー。さすがクレイジーマウンテン!!よく無事に帰ってこられたものです。
2度と登らないだろうと思っていたこの山に、再び登るという奇行。
やっぱり私もNちゃんもある意味クレイジー、かつ、あたおか(頭おかしい)、かつ尋常じゃない部類の人間であることは間違いなさそうです(笑)
しかし、何故でしょう。ヒリヒリするような死と隣り合わせのこの瞬間が、逆に「生きている」ということを際立たせ、圧倒的な「今」という瞬間を形ある確かなものとして感じることができるような気がするのです。
だからこそ、危険な山に行ってみたくなるのかもしれません。
この恐ろしい山に、わたしたち女子ふたりだけの力で登れたということは、やはり誇るべきことなのではないでしょうか。
剱岳への訓練としては、充実した内容だったと思います。
今回は、かなり達成感のある山行となりました。
Nちゃん、わたしたち本当に頑張ったね!!
あとは本番。とにかく頑張りましょう!!
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参考です
【今回の二子山登山記録】
行動時間 5時間33分(標準タイム 3時間20分)
■ 山行時間 3時間30分
6:27 倉尾登山口
6:30 股峠
7:26 西岳(1165.8m) 54(40)
9:49 股峠 2’30(1’30)
10:35 東岳 〈23〉
11:47 股峠 〈38〉1’05(1’10)
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