なかなかスケジュールが合わなくて、雪山に行けず少々フラストレーショ ンが溜まり気味。それはKさんも同じ様子。 そこで、南岸低気圧が近づいて来ているギリギリのタイミングでなんとか 行けるか?!と武尊山に挑戦することに。 しかし、予報は終日雪の様子。ただ、風はこの日だけは弱い予報なので、 とりあえず行ってみて判断。もしダメそうならスキーに切り替えれば…と いうような話でまとまりました。 この日一番のリフトに乗るべく4時半に出発。現地へ向かいます。 平地では雨だったのが、スキー場に到着する頃には完全に雪に変わってい ました。さて。見渡しても登山をしようとしている輩は私達二人だけ。 若干不安を感じながら、とりあえず登山届と引き換えにリフト券を購入 し、いざ出発です。 しかし、リフトを乗り継いで登山口まで着いてみると、かなりガスってい て、本当にこんな状態で行けるの?という状況。すると、後からもう一組 の登山者二人組が現れました。剣ケ峰辺りまで行ければ…と言っていま した。どこまで行けるか。または撤退してスキーか…? と、思いつつ登り始めますが、いきなりの急登!! 暫く登り、開けた場所に出た途端、かなりの風が吹いていました。 「え??!!これはムリでしょう!!やめましょう!!」 と言って立ち止まる私を置いて、Kさんはどんどん登って行ってしまいま す。後ろの二人も立ち止まり、躊躇している様子。 前日降った雪もかなりあるようで、完全にツボ足状態でかなりの急斜面を トラバースしながら進みますが、ストックではムリを感じたので、途中で ピッケルに持ち替えました。ここで、後ろの二人に先行してもらいます。 かなりの急登をフロントポインティングでなんとか登り終え、稜線へと出 ました。かなり平な稜線で、おそらく晴れていれば目の前に剣ケ峰が見え ていたものと思われます。 しかし、風は更に強まり、視界は全くありません。先行した二人はここで 引き返すようでした。勿論、私も引き返す気満々です。 しかし、Kさんは「だーいじょうぶだ!!」と笑いながらどんどん行こう とします。何度も首を横に振り、嫌だ!!とアピール。そして大声で 「イヤです!!!行きたくない!!!」と言ってみましたが、どんどん 先に行ってしまいます。途中で立ち止まっても、早く来い!というジェス チャーで更に進んで行ってしまいました。森林限界を越え、風はモロに吹 き予報以上の風の強さ。対風姿勢をとりつつようやくKさんに追いつき、 辺りを見回してみると、ハッとしました。…完全にホワイトアウト…。 さすがにKさんもヤバイと思ったのか、引き返すことにしたのはいいもの の、全く視界がなく、完全に登山道を見失ってしまいました。 明らかに、踏み後はなく、しまっていない雪に足を踏み入れると、腿くら いの深さまで埋まり、身動きが取れません。これは絶対道が違う。 GPSを見てみると、やはりちょっと登山道からは外れて歩いている様子。 しかし、ほんのちょっとの差のようです。 すると、間髪入れずにKさんが「救助を呼ぼう」と言い放ちました。 「え!?マジで…!?」とは思いましたが、確かにここでウロウロしてい るうちに、本当に変な所に入り込んで、しかも体力を消耗しては完全に ヤバイ状態になる…。私ならその判断はできなかったかもしれませんが、 Kさんは速攻電話を始めました。もし電波が届かなかったらどうしよう… と思っていると、電波は大丈夫の様子。まずはスキー場へ電話。しかし、 スキー場では対応不可能とのことで、次に警察へ。数回のやり取りで、み なかみ署から救助隊が来て下さるとのこと!!本当にありがたいこと! ここでとりあえずは安堵。どうやら警察では携帯の位置情報でどの場所に いるのか大体わかっている様子で、動かずそこで待機していてください。 と、指示されました。あとは、この強風でリフトが動かなくならなければ それ程気温も低くなかった為なんとかなるだろうと思い、とにかく風を 避ける為に雪洞とまではいかなくとも雪を掘り、ツエルトにくるまらねば なりません。比較的大きい木の側へ移動し、ピッケルのブレードを使って 雪を掘ります。ありったけの服を着込み、続いてKさんのツエルトを雪の 上に敷き、私のツエルトを頭からすっぽり被り、風を凌ぎます。しかし、 かなりの強風で何度もツエルトがめくれあがり、なかなか体勢が落ち着き ませんでしたが二人体を寄せ合ってお互いの熱で暖をとりつつ、じっと待 つことにしました。体勢が安定してきたので熱々のお湯を飲み、大分心も 落ち着いてきました。食べる物もまだあるし、お湯もたっぷりある。 数時間なら余裕で耐えられるだろうし、きっとその間に救助が…。と冷静 に考えつつ、たまにKさんが警察とやり取りをしながらツエルトの中で暖 をとりました。途中でトイレに行きたくなってきたので、今のうちに行っ ておこうとツエルトから出てみると、どこからか声が…。「どこーー?」 という女の人の声。Kさんが「おーい!!」と言うと、また声が。暫くす ると、うっすらふたつの影が。もしかして救助隊?と思って速攻ツエルト を畳み、支度をしましたがその二人もどこかに行ってしまった様子。 幻覚?でも、あんなはっきり見えたり聞こえたりしないよなぁ…。しかも 二人共確認してるし…。Kさんが速攻警察に確認すると、救助隊に女性は おらず、まだリフト付近にしか到着していないはずだからもう暫く待つよ うに言われたとの事。もしかすると、誰かから事情を聞いたその日3組目 の登山者が、心配して声をかけてくれたのかも。 ということで、ギリギリまでもう少しツエルトにくるまっていようと改め て待つ事に。一番最初に警察に電話をしてから約2時間。また新たに声が 聞こえてきました。今度こそ本当に救助隊がやって来たようです。 急いで身支度をし、救助隊の方に連れられて斜面を一度登り返します。 ほんの30m程東へトラバースしたところで、ルートに戻りました。…なん と!!こんなに近いところだったのか…。とびっくり。しかも、この2時 間の間に更に風雪は強まり、新たに20センチ近くは積もってしまったよう で、登山道が新雪でフカフカとなり、足を取られる事数回。あっという間 に急坂となり、後ろ向きのダガーポジションで下ります。 後ろに付いてくれたお兄さんがロープで確保してくれつつ、前にいる方は 方向を教えて下さり、ようやくトラバースポイントまで下りてきました。 ここまで、かなり必死です。その後も、新雪で歩きにくい斜面を、先行す るお兄さんが足場を踏み固めてくれながら、無事リフト乗り場までおりて 来ました。改めて、隊の4名の方にお礼とお詫びを言いつつ、あっという 間にスキー場まで戻ってきました。 ここで簡単な事情聴取。もっとこっぴどく叱られるものと思っていたのに 意外にも、全員本当に優しい…。 「今回は近い場所で、我々もすぐに到着できましたが、もっと離れた場所 だったりすると、落ち合うのも大変で、我々自体が行けなくなる可能性も ありますから、十分気をつけて下さい。」とだけ言われ、そこで皆様とは お別れしました…。 しかし、今回のこの遭難事件。お互い山に慣れて来て、「大丈夫かな?」 という何の根拠も無い希望的観測が引き起こしたと言えるでしょう。 やはり、過信は禁物。常に謙虚に、また自然を甘く見てはいけない!! と改めて肝に銘じました。そして、こんなバカな登山者の為に助けに来て くださった救助隊の方々…本当にありがとうございました!!そして本当 に申し訳ございません…!! 周りの方々に心から感謝して、この教訓を次に活かせるよう、また心新た に勉強に励みます。 Kさん、今回のことは相当こたえた様子で、「これからはNさんの言う事 を聞くわ」と言っておられましたが、逆に私はあの段階で電話することが おそらくできなかったと思うので、あれは本当に英断だったと逆に感謝で した…。そして、二人共パニックにならず冷静に対応できた事も、良かっ たのかもしれません。 何はともあれ、とりあえず生きて帰ってこられてよかったーーー!! これぞ、一生忘れる事のできない登山となってしまいましたが、これ位の 慢心しそうな時期に、大事にはいたらない失敗でお灸を据えられた形にな り、色んな意味で良かったのかもしれません。 Kさん、本当にお疲れさまでした! そしてこれに懲りず、更に上級者目指して日々精進しましょう!!