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  • 執筆者の写真junpei

天狗岳 〜ついに明かされた大丈夫の秘密編〜

茅野駅で軽い挨拶を交わした私たちは、すぐにバス乗り場へと直行。

渋の湯まではおよそ1時間のバスの旅です。

だんだん山間部へと進んでいき、積雪量も多いなあと感じて来た頃、

坂の途中でバスがおもむろに停車しました。

何だろう?と思っていると、「ここでチェーンを装着します。」との

車内アナウンス。

…っていうか、ここまで結構雪積もってたけど、チェーンなしで大丈夫

だったわけ!?とは思いましたが、運転席の近くに座っていたおじさん

(おそらくバス会社の人なんでしょう)と運転手さん二人は、

あっと言う間にチェーン装着を終え、車内へと戻って来ました。

さすがチェーンを巻いたタイヤはかなりの揺れで、車酔いがヤバいと

言っておきながら、何故か後輪の近くに座ったマゾ的なM嬢とKちゃんを

地味に攻撃しつつ、どんどん険しくなってくる山道を再び登っていきました。

しばらくすると、

「あっ!!カモシカだっ!!」

とKちゃんのどでかい叫び声が。

「えっ!!どこどこ??」と言ったと同時に、車体左側の木々の間からこちらを

見ている小さめのカモシカ2頭を発見!!

去年四阿山に登る途中で見かけたカモシカよりひと回りくらい小さいような。

通常単独で行動すると言われるカモシカ。もしかすると子育て中の親子だったのかも

しれません。

ワクワクで眠る事もなく、外の景色を見入っているうちに終点渋の湯へ到着。

茅野から乗った登山客は全てそこで下車し、旅館前のスペースで身支度を始め

ました。

細かい雪が降っており、寒さも半端じゃありません。

ゴアテックスの上下を着込み、ネックウォーマーをし、スパッツを履き…

とかなんとかやっているうちにどんどん手がかじかんで動作が鈍り、

ようやく最後にアウターの手袋をはめたのに、何かしらの装着を忘れてまた

一からやり直す等、段取りの悪さが更に追い討ちをかけるというトホホな状況。

しかも、着替えながらチラチラ視界に入ってくる、渋の湯(渋御殿湯)の女将さん

らしき女性が、到着後から気になって仕方ありません。

何故なら、バス到着を待っていましたと言わんばかりに、旅館入口の階段付近で

腕組、完全仁王立ちで我々登山客を監視していたからです。

♪ チャララ〜 チャララ〜 ♪

「広島の喧嘩いうたら 殺るか殺られるかの2つしかないんでぇ〜!!」

とまでは言わないが、文ちゃんもビックリするようなかなりの貫禄。

雪降ってるし、ロビーとか使わせてくれたら有り難いのに…と思いながらも、

飲食禁止と書かれた張紙が周囲に張ってあったりで、怖いおばちゃんだなぁ…と

ビクビクしながらの準備となりました。

時間は大体12時頃だったでしょうか。

いよいよ渋の湯(標高1,880m)から黒百合ヒュッテ(2,410m)を目指して出発です。

師匠が決めた歩く順番は次の通り。

隊長(師匠)⇨ 私 ⇨ Kちゃん ⇨ Uさん ⇨ Zさん ⇨ M嬢

おそらく今回初参加のチームGのお二人が、どの位で歩けるかわからない為、

このような順番になったものと思われます。

旅館を背に、橋を渡ると登山道の入口です。

初めはとりあえずアイゼンなしで大丈夫だろうということでしたが、登山道へ入ると

やはりかなり滑ります。

そこで、すぐさま「やっぱりここでアイゼンを付けよう」と師匠が決定。

みんなそこで準備にとりかかりました。

師匠が持って来てくれたアイゼンの袋を受け取り、袋を開けてみました。

?爪が6本…。

あれ?アイゼンってこんなにシンプルだったっけ…。と訝しがりながらも

師匠から付け方を教わりつつ周囲をふと見回すと、「えっ?!」と

二度見するような光景が広がっていました。

全員、12本爪のアイゼン…!!

付け方を丁寧に教えてくれた師匠が履いているアイゼンはというと…?

ガーン!!12本爪じゃん!!

ええーー!!??うそーーー!!まじで!?

「あのー、私これで大丈夫なんですか?!」と師匠に聞くと

「だいじょうぶだよ〜。」といつもの余裕な雰囲気。

本当に大丈夫なのか、非常に気になるところではありましたが、

まあ師匠が言うのだから大丈夫なんだろう…。そう気を取り直し、再び歩き始め

ました。

前日からの降雪でかなりの積雪も見込まれた為、実は電車の中でも師匠とM嬢は

ワカンの必要性を心配していました。

しかし午前中に入った登山客のおかげでラッセルは免れた為、師匠のワカンは特大

ストラップのようにザックにぶらさがったままでお役御免となり、ひとまず一安心。

そもそも雪山登山の知識のない私やKちゃんは、登山計画中の持ち物の中で

ベテラン二人が論じていた「ワカンを持参すべきか否か」については

全くついていけておらず「ワカンってなんぞや?」というところから始まるど素人。

お互いが人知れずネット検索していたことが、車内で判明しました。

しかし、検索ワードに引っかかって出て来た所謂「かんじき」。と、すぐに

納得できた私と違い、何故か「和○」に関する情報がどっさり出て来てしまった

Kちゃん。

この事実を黙ってはおられず、奥さんやM嬢に狂喜して報告するあたり、さすが

Kちゃん。オモロイ人です。でも、私が検索した時は出てこなかったけどな…。

一体どんな検索ワードを入れたのやら。

とまあ、そんな阿呆な話題やらを歩いている時にずっと連発するかと思っていた

Kちゃんが、殆どしゃべらず黙々と私の後をついてきます。

M嬢の話とは随分違うなあ…と思いながらも、私の方は師匠に遅れまいとついていく

のに必死。

時折師匠のアドバイスに返事をしながら、あっという間にハアハアと息が切れます。

雪道は石ころ等が雪で隠れている為、夏山と違って歩きやすいとも言えるのですが、

足が埋まったり、また一歩一歩に時間を要すため、疲労感はこちらの方が大分

あるように思います。

毎回登山の時に私が心がけているのは、師匠の踏んだ足跡をそのままトレースする

ことですが、今回の雪道では、特にその必要性を感じたので、いつもより更にぴったりと

くっついて、師匠の足を踏んずける勢いで歩いていました。

当然殆ど脇目もふらず、夢中で師匠についていくことしか考えません。

ふと、途中で師匠が後ろを振り返りました。

すぐ後ろのKちゃんがいて、あれ?その後がいない…と思ったら大分遅れてチームGと

M嬢が見えました。

「だいぶへばっとるなぁ。」と師匠。意外にもまだ余力のあった私は、

その光景を見て、自分の事を常にへたれだと思ってたけど案外まだイケてるかも?

と、少し安心したのでした。

しかし、実はチームGのお二人、前日も遅くまで呑んでいて、朝方までかかって

パッキングを行った為殆ど寝ていなかったとのこと。

そりゃへばって当然…!というかその状況で登山するなんて逆にスゴイ!!

その後は師匠がチームGに合わせて、数回の休憩を挟んだり、ペースをゆっくりに変更。

途中Zさんが足をつって転倒するなどちょっとしたハプニングもあったものの

それ程難しい箇所はなかったので、大分心の余裕も出て来た私は、

暫し師匠やKちゃんと雑談しながら歩いていました。

細かい雪は未だ止まず、天気はイマイチでしたが、師匠が言うには気圧計が

どんどん上がっているから、おそらく今夜から明日はいい天気になるだろうとのこと。

もしも翌日登頂するのに、こんな雪だったらおそらく中止になってしまうだろうし、

どうか晴れてくれ!!と願うばかりでした。

そもそも、雪山登山に一番重要なのは天候。

天候が最悪では、どんな豊富な知識も、経験値も、装備も、歯が立たない…

だからこそ、やはり冬山は恐ろしいと言えます。

大ベテランの師匠やM嬢が一番気にしていたのは間違いなく、その天候で、

事前にも天候悪化の場合は、小屋までのピストン、最悪は温泉まで。とはっきり

明言していました。

私に知らされたのはその程度のことでしたが、師匠とM嬢の間ではもっとリアルに

様々な可能性を仮定して計画を立てていたそうです。

すると、師匠がM嬢に、「メールにはそんなに恐ろしい事を書いちゃいかんよ。」と

密かに指令を出していたとの事。

やれ鎖場がコワイだの、長時間の登山はへたれだからムリだのと言ってはすぐにびびる私。

そんなびびりの私が、M嬢からのそら恐ろしいメールを読んだら、「行かない!」と

言い出すに決まっている。だから書くな。と。

「なーーにーー??」とまずその事実に驚き、

「やっぱりKさんの言う事は信用ならないですよね。いつも大丈夫大丈夫って言って

おいて、ほんとはいつも全然大丈夫じゃないじゃないですか!!ほんとKさんは

いつも嘘つきなんだから…。」と私。

「へへへ…そんなことないよ。」と笑いつつ

「まあ、Jちゃんにはたまに嘘つくけどね。」と小さくつぶやく師匠。

「ふーん」と一度はスルー。しかし、すぐ、ついに明かされた真実に気付きました。

「えっ!!??今、ついに白状しましたね!!??」

ずっと笑ってごまかす師匠。

今までどうも「怪しい」と思ってはいましたが、やはり私を騙していたようです。

このやり取りを見ていたKちゃんにも、悪戯っ子極まりない師匠の様子はかなり

面白く映ったようで、

「あのとき、それまでさくさく歩いてた動きが一瞬ピタって止まったもんね!」

と、言っていました。

しかし、師匠の「大丈夫」はこれからが本番でした。まだこの時の私には想像すら

つかない程の過酷な「大丈夫」が隠されていたのです。(大げさ(笑))

休憩を何回も挟んだのと、ペースをゆっくりにした為に、当初の予定からは大分

遅れたかと予想していた師匠とM嬢。まだ残りが大分あると見越して、M嬢と師匠が

歩く位置を交代。M嬢が先頭で歩きはじめました。

まだまだ登りが続くと思われたその林を抜けたとき、「あ!!見えた!!」と

M嬢の声。見えました。黒百合ヒュッテです。

装備を外し、凍り付いて堅くなった引き戸を満身の力を込めて開け、山小屋に入ります。

出迎えてくれる小屋の方や、居合わせた登山客の方々みんな親切で感じの良い方ばかりです。

ちょうど小屋の真ん中にあるストーブを囲みながら、早速ビールで乾杯しつつ

色々お話していると、なんとその方はテント泊をする方達でした。

夕食のメニューはチーズフォンデュということで、

ワインも沢山担いで来たとのこと!テント泊なんて考えただけでも寒そうで

私には絶対ムリだけど、山でチーズフォンデュとは羨ましい!!

その後は夕食までの間、奥にある薪ストーブを囲み、みんなで談笑。

しかし、初めて話す登山客の方もそうですが、私たちのグループも初めて出会った

メンバーも含まれているというのに、昔から知っているかのようなこの平和な

雰囲気は何なのでしょう。

ひとりひとりのコミュニケーション能力の高さはもちろんの事、やはり師匠が

自然とそういう人を惹き付けてしまうのかもしれません。

みんなで晩ご飯を頂いた後は、それぞれ持ち寄ったつまみで酒盛りです。

途中、師匠が言った通り空は快晴で満点の星空を見る事が出来ました。

中学時代天文部だった頃の多少の知識を元に星座を説明しつつ、

震えながらも、みんなで美しい星空を眺めました。

こんな星空を見られるのも、山小屋泊の醍醐味のひとつといってもいいかも

しれません。

楽しい時間はあっと言う間です。消灯時間の20時半になり、人気の山小屋にしては珍しく、

宿泊客が10人程度だったこの日、至極快適な寝床で、就寝となりました。(続く)

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